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人間の証明

f:id:merak1225:20220411224700j:plain人間の証明

 

2022年3月30日から読み始めた【人間の証明】を、2022年4月10日に読了した。

 

あらすじとしては、ジョニー・ヘイワードという黒人の男性が遠い異国の地、日本の東京で刺殺体で発見されたところから始まる。少ない手がかりを手繰り、刑事である棟居はその死の真実を知る・・・。というミステリとしては王道のストーリー。

 

未読の方も居るかと思うので、詳しいネタバレは避けるが、多少ストーリーに関わりのある記述もあるかと思うので、ここから先はご了承の上で読んでいただきたい。

 

 

個人的には、とても面白く読むことが出来た。
最近体調を崩しており、本を読むことすらままならなくなっていた私の読書欲を、再び復活させてくれたほどである。

 

端的に言えば、これは親子の物語であり、母と子、父と子の物語であり、一人の男・女としての物語であった。人というものにスポットライトを当て続けいて、それがブレない。
徹頭徹尾、人の物語であったと感じた。
今風の言葉で表すなら、ヒューマンミステリの部類になるのだろうか。
(作品が発表された当時に、ニューマンミステリという言葉があったかどうかを、わたしは知らない・・・)

 

それぞれの過去から現在に繋がる人生の糸が絡まり、縺れ、こんがらがった。その結果がこのミステリの真相だった。人の生きる意味、人生、過去・現在・そして至る未来とは、なんなんだろう、と真剣に考えた。

 

生きている限り、生きてきた限り、どこかに必ずその痕跡は残る。
過去として置き去ったはずの痕跡が、息を潜めて捨てられた場所に残っている。
それが過去であり、その過去からの連なりが現在なのだろう。
人はどう足掻いても過去からは逃げられないし、消し去ってしまうことは出来ないものであることを、この小説を通して、改めて理解した気がする。

因果とも呼ぶべきものが、物語の根底に走っていると感じた。

 

わたしはこの小説の舞台になっている時代にはまだ生まれていない。
だが情報としては、どのような時代であったかは知っているつもりでいた。
小説を読んでいる間中、わたしはその年代の中に生きている心地がしていたように思う。
それくらいに惹きこまれるストーリーだった。

 

小説の構造自体はシンプルで、文体も古くさく感じることはなかった。
ページを捲る手は止まらなかったし、読み進めるのが楽しかった。
トリッキーさはないものの、その分を「人間」というものへの照明として当て続けていて、ミステリとして楽しめた。

 

最後の最後で、タイトルの意味がきっと理解できると思うが、それを知ったとき、私は衝撃を覚えた。
その意味を知ったときの衝撃や面白さを、ぜひ味わってみてほしいと思える小説だった。

 

追記ではあるが、「西条八十」という詩人をわたしは初めて目にした。
詩集がほしいと思った。叙情的な詩で有名とのことだった。
いつか、読みたい。


2022年4月11日 記す